《 加 》 こんにちは。相武台脳神経科外科の加藤貴弘です。今回は、ボクシングのフライ級元世界チャンピオン、五十嵐俊幸選手をお招きして、お話を伺います。
一番キツイ減量の時に、最初の世界チャレンジだったのですか?
《 五 》 そうですね。やはり、ブランクが空いた事によって減量もきつくなったというのもあったし。その後、初防衛と2回目の防衛とフライ級でやったのですけれど。やはりその時の減量も、同じ様にきつかったですね。やはり10キロ~12キロくらいやったのかな確か。
《 加 》 やはり世界チャンピオンというのは、結構強かったのですか?強かったというか、今までとは違う相手というか。
《 五 》 僕が挑戦した時のチャンピオンは、フィリッピン人だったのですけれど。背が低くてテクニックはさほどでは無いのですけれど、もう兎に角パンチ力が半端じゃない。凄くもう公開練習の映像とかを観ていても、どうだ俺のパンチ力はという見せびらかす様な打ち方で。凄い音をさせていたのですよ。これ貰ったら本当にやばいなというパンチを打っていて。
いざ試合で貰ってしまったのですよ。4ラウンドくらいだったと思うのですけれど。ボンッと貰ったら、相手が5人くらいに見えました。それで、今までも何回か目がくらんで相手が2、3人に見えた事ってあったのですけれど。パッとなってすぐにヒュッと戻ったのですけれど。その時には、ドカッと貰って相手が5人くらい見えて凄いなと思ったのですけれど、それがしばらく戻らなくて。これは本当にまともに受けたらやばいなと。パンチ力に関しては、今までやった中で最強でしたね。
《 加 》 それは、悪いイメージトレーニングもされていたので動じずにですか。
《 五 》 そうですね。パンチ力があるという事は分かっていたので、たぶんそういうシーンは絶対来るだろうなという気持ちは絶対持っていたので。とりあえず、それを貰った時には、視点が元に戻るまでは足を使って追撃を貰わない様にというので、イメージをしていた通りに出来たと思います。
《 加 》 ちなみにその視点は、焦点はどれくらいで戻ったのですか?
《 五 》 30秒位かかったのでは無いですかね。それまでは本当にドンっと貰っても、2、3秒。4、5秒で元に戻ったものが、しばらく戻らないから。これはやばいなという。
《 加 》 KOって今までされた事ないですか?
《 五 》 プロ・アマ通してKO負けというか、ダウンした事が無いですね。
《 加 》 凄いですね。
《 五 》 やはい貰う事を恐れているといったらかっこ悪いですけれど。良くモハメドアリの、蝶のように舞い蜂の様に刺すみたいな。だから、出来るだけ被弾を避けて勝つというのが、僕のポリシーでもあるので。だから、もう16年やってはいますけれど、僕と同じ様に16年やっている選手の中では、試合やスパーリングを含めても、やはり被弾数というのは僕は格段に少ないと思います。相手に打たせない、当てさせないボクシングというのをずっと心掛けてやっていたので。
最近はちょっと、打ち合いとかもする様になってきたので、被弾が増えてきたのですけれど。昔なんかは本当に、アマチュアで試合をしていた頃なんか、試合を通して一発もパンチを貰っていなかったりなんかもあたので。
《 加 》 凄い。仕留めるのは本当に武器であるカウンターですか?
《 五 》 そうですね。一発のパンチ力には欠けているので、なかなか一発でキレイに倒すという事は出来ないですけれど。決め手となるのがやはり、カウンターだったりですかね。カウンターも2種類あって、同時に打って自分だけ当てるカウンターと。相手に打たせて、空振りを誘ってそれに後から打つカウンターというのがあるのですけれど。
一番ピークで凄かったのが、大学生の頃かな。ビデオであるのですけれど。自分の中ではカウンターを、後から打っているつもりなのだけれど。ビデオで見ると、僕の方が先に打っているのですよね。もう先読みで、相手が打ってくる瞬間がもうわかってしまっているので。バンッって打ててる、あの時の感覚が最高だったなと。
《 加 》 物理的には先なんだけれど、ご自身の感覚では確実にカウンターとして打っているという感じですよね。
《 五 》 実際、でもそうなのですよ。相手のやる事がわかっている時があるのですよね。お互いの実力差だったり相性もあるのですけれども。やりやすい相手とかというのは、どのタイミングで打ってくるかが分かるから。そういう事は結構、可能ですよね。不思議なもので。
《 加 》 良くそのスポーツ選手の極限状態に入った時って、同じチームメイト内が凄く一体感が感じる時ってありますよね。相手が何を考えているかとか。
《 五 》 たぶんそれだと思います。
《 加 》 実は僕自身も、低いレベルながら感じた事があるのですけれど。小学校の時のクラスマッチの綱引き大会とか。あと、バスケットのクラスマッチとかで、チーム全体が凄く一体感を感じた事があるのですね。凄く弱小チームだったチームが一体感を感じた瞬間に、めちゃくちゃ強くなったというか。相手が何をやろうとしているのかが分かるという感じがあって。
それって結構、色々な本を読んでも、スポーツ選手は凄く極限状態で、ある程度何かを感じられているとか、そういうエピソードを何度か聞くのですけれども。一対一の段階でも、やはりそういった相手と繋がるというか、相手のことがわかるという所はやはりあるのですね。
《 五 》 ありますねやはり。先言った、カウンターパンチに関してもそうなのですけれど。良く高校生なんかでもたまに教える時に、パンチを交わす時に、相手のどこを見たら分かりやすいですかとか言われるのですけれど。正直、自分が相手のパンチを交わす時って、どこを見てるとかって無いのですよね。相手の全体像をザッと見ていて、リズムとか雰囲気とか勘ですよね。あ、来るなという。
《 加 》 殺気みたいな。
《 五 》 殺気というか、このタイミングで来るというパターンがやはりあるので。やはりその相手その相手で。で、やりやすい相手、やりにくい相手がある中で。そこが合っているか合っていないかの違いで。勘で避けるのだよと言ってしまっている自分が、指導者としてはどうなのだろうとか。
《 加 》 そうですよね。なかなか伝わりにくい物がありますよね。
《 五 》 正直でも、相手のどこを見てパンチを予測するというのはそれも、分かりやすい表現なのかもしれないですけれど。でも、実際にボクシングの試合ってこの距離よりも近いじゃないですか。その距離で、相手の動作を見てから体を動かして行ったら、絶対に間に合わないのですよね。
なので、ある程度予測が必要になってくるので。結局、ボクシングのディフェンスってやはり、勘と経験ですよね。強い選手って絶対にその部分を持っているので皆。で、そうでなければ絶対かわせないし。パンチを当てられないというのがあると思うので。
《 加 》 極めた人にしか分からない実感というか。
《 五 》 そうですね。言葉では言い表せないというやつですよね。そういう所を教えるのが、凄く難しいですよね。
《 加 》 僕らのクリニックでも、体の声を聴き続けるという話をしているのですけれど。人の体を聴くというのは、それ以上に凄い事ですよね。
《 五 》 目で見える事では無いものを察知するという事ですよね。先生は脳神経という分野じゃないですか。僕はボクシングという分野で、そこの域まで達しているのかという。俺はこの場で改めて思いました。
《 加 》 凄いですね。あの、一回やはりその世界チャンピオンになられて、やはり昔からのライバルというのですか。八重樫選手に一回ちょっとチャンピオンを落とされてという事だったのですけれども。その時の、精神状態というのはどういったものだったのですか?
《 五 》 単純に悔しかったってだけですね。確かに、アマチュアで僕は4回やって4回勝っていたので。その分、八重樫さんは悔しい思いをしていて、あいつに絶対勝ってやろうという気持ちはあったと思うし。それがあったから、5回目の対戦で僕は負けましたし。ただその時、八重樫さんが強かったから八重樫さんが勝っただけであって。また次があるのであれば、僕はやはり単純に勝ちたいだけなので。また、一生懸命に練習をするだけで。
良くボクシングで、恨みとか何とかという選手が、ボクシングに限らずいると思うのですけれど。本当に僕は、ボクシングというのはスポーツとして捉えているので。そういう物は持ち込まずに、本当に一生懸命に楽しくやりたいと思っているので。
《 加 》 フェアプレーで戦えば、やはりそういう気持ちになりますよね。
《 五 》 去年の9月の再戦で、メキシコ人と試合をしたのですけれども。メキシコ人なので当然、言葉なんて通じないわけじゃないですか。何ラウンドかに僕が、間違えてローブロー、腹部よりも下を打ってしまったのですよ。そしたら、相手がイラっとした顔をしたのですよ。当然、反則なので。で、相手がわざと今度はローを打ってきたのですよ。
そこで僕は、わざと打っているのがわかったので、そいつに試合中ですけれど。OK、OKと言って、クリーンクリーンと言って、お互い様だという風に言ったら、相手が笑って試合中なのですけれど、グローブを合わせてきたのですよね。OK,OK,またフェアにクリーンにやろうぜみたいな感じで。そういう風にですね、ボクシングはスポーツなんだよなと思いましたね。
《 加 》 やっている瞬間の楽しさというか。
《 五 》 あれは凄くやっていて気持ちが良いものですよね。やはり、お互いにそういう風にフェアにやり合えるというのは。
《 加 》 そんな中でまた、再度、世界の頂きというか。チャンピオンを目指していかれているのですが。途中、ちょっと伺ったのですが、肩を痛められたのですか?
《 五 》 去年の9月の試合で、肩を痛めてしまって。左肩関節唇損傷という症例で、12月に手術をして、4月くらいからですかね。トレーニングを再開して。6月の末くらいからようやく、スパーリングを思い切り出来る様になったのですけれど。その間、練習が出来なくて辛い時期はありましたけれど。でも、辞めようとも思わなかったし、あまりマイナスな方向にはいかなかったですね。
《 加 》 それはやはり、五十嵐選手を支えられているのは、もしかしたらもっとこう強くなれるとか。もっと楽しみたいとか。
《 五 》 そうですね。当然、それもありますし。やはり今はもう家族がいて、奥さんと子どもがいるのですけれど。僕がボクシングで稼ぐ事によって、家族は生活をしているので。やはりそういうものの支えにならなければいけない。で、自分が出来るのはボクシングしかないという、色々な思いがあって、今辞めるわけにはいけないという気持ちで。
《 加 》 これから目指されていく中で、五十嵐選手のそのコアな部分というか。感覚的な部分が一つあるなと思うのですけれど。その感覚的な凄いものがあって、これからもっと上に行けるとすると、どういう所を鍛えるというか。伸びしろというとどこら辺があると、ご自身の中では思いますか?
《 五 》 伸びしろはそうですね、どこなのですかね。年齢的にも、もう31歳になるし。能力的にはちょっと難しいかもしれないのですけれど。やはり根本的な所はやはり、自分がモチベーションをどれだけ高く保ち続けられるかじゃないかなと思っていますね。当然、トレーニングはして、さらに上を目指すわけではあるのですけれど。やはり気持ちが一番かなと思っていますね。
《 加 》 その強い気持ちでやってく中で、見えない自分がまた見えてくるというか、開けてくる可能性があるというか。
《 五 》 そうですね。やっている以上、誰だってそうだと思うのですが、強くなりたい上に行きたいと思っているので。やはり、そこに行った時に思う事、感じる事というのは絶対に違うと思うので。今いる立ち位置から変わって、何が見えるのか。その時になってみないと分からないので。
《 加 》 やはり本当にこう、一瞬一瞬を真剣にやって。そして、得る物はその後という事で。成長はここと決めつけてしまっているわけでは無くて。もう本当に真剣勝負でやっている中で、得る物があれば得たいという感じですか。
《 五 》 本当にだから、さっきも言った座右の銘の、出来る事を出来る期間に出来る限りという。本当に出来る期間はもう、あと何年だろう。3年あるのか分からないですけれど、出来る期間は出来る限り、やるしかないだけなので。特に、それ以外の事は考えていないですね。一生懸命にやり切りたいなと思っています。
《 加 》 凄いですね。出来る事を出来る期間に、出来る限りというのは。本当に僕の中でも凄い言葉だなと思うのですけれど、これはご自身が考えられたのですか?
《 五 》 いや、これは僕自身の言葉では無く、今は僕の座右の銘ですなんて言ってしまっていますけれど、この言葉を作ったというか考えたというか、発したのは歌手のデーモン閣下なのですよね。僕実は聖飢魔Ⅱのファンで、デーモン閣下とも交流がありまして、たまに会う事があるのですけれど。
《 加 》 実際にお知り合いなのですね。
《 五 》 はい。何かのライブのビデオのインタビューの時に、聖飢魔Ⅱというと30年くらい前ですかね、デビューしたのが。その時に国内でデビューをして、1999年で解散したのですけれど。その後、5年おきに復活して、世界ツアーとかをやっているのですけれど。99年に解散をして、2010年に世界を回った時に、物凄い人気だったらしいのですよ。解散して10年も経っていて、グループが出来て20何年も経っている時期で。その時に言った言葉が、ぶっちゃけ自分たちがもっと若かったら、もっと世界で売れているのではないかなと言っていたのですよ。
でも、そんな事を今更言ってもしょうがないから、出来る事を出来る期間に、出来る限りやるだけだと言っていて。それを聞いて、これだと。人間は出来る事が決まっているじゃないですか。あの人達は悪魔なのですけれど。
《 加 》 人間では無いですからね。
《 五 》 人間では無いのですけれど。これ凄いなと、この言葉を本当に座右の銘として使わせて頂いています。
《 加 》 今日はちょっと、かなり衝撃的なお話しばかりだったのですけれども、本当に貴重なお話をありがとうございました。凄く勉強になりました。本当にもうぜひ、9月6日ですよね。今度の試合をされて、将来的というか、近いうちにはまた世界チャレンジを取って頂きたいなと。僕としても、出来る限り応援させて頂きたいなと思いますので、ぜひ宜しくお願い致します。今日はどうも、ありがとうございました。
《 五 》 ありがとうございました。
《 加 》 いかがだったでしょうか。ボクシングの五十嵐俊幸選手をお招きして、今回はお話を伺いました。僕自身凄く新鮮なお話しばかりで、非常に鳥肌物の勉強になる内容となりました。是非皆さんも、何かの参考にして頂けましたら幸いです。またこれから五十嵐選手、世界チャンピオンに向けて、当院としましても出来る限り応援させて頂きたいと思います。宜しくお願い致します。