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「痛み」に挑む脳神経外科医。脊髄刺激電極留置術とは?東海大学脳神経外科教授 松前光紀先生第3回

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《 加 》 こんにちは。相武台脳神経科外科の加藤貴弘です。今日は、チャンネルS番外編。市民公開講座としまして、東海大学脳神経外科教授、松前光紀先生をお招きしてお話を伺います。どうぞ、よろしくお願い致します。

《 松 》 それでは次はですね、痛みの治療という事についてお話を致します。痛みというのはですね、非常に定義が難しいのですよね。で、何なのかと。痛みは、他人にはなかなかわかりずらい。自分でそれが不愉快な感覚、これはやはり体験なのですね。こういう不快な体験。それを、痛みという風に言います。良く私も上手く言葉で表現が出来ないのですけれども、それでも、痛みは感じた事があると思います。

 この感覚、情動体験を含めて痛みと定義しますけれども。一つはですね、急に来る痛みと。それから、ずっと。あるいは、ある程度、長い時間その痛みが続くという、その二つのパターンに分かれます。一般的に、慢性の痛み、ある程度長く続くというのは、3ヶ月以上続くものを慢性の痛み。長く続く痛みという風に呼んでいます。今日はですね、この慢性の痛み。長い期間続く痛みの事について、お話を致します。

 痛みの分類なのですが、三つあります。一つは、神経が病んで痛むもの。もう一つは、例えば、ボールが肘に当たって痛くなるような外傷。それから、切り傷。火傷。こういう様な、炎症による痛み。それから、最近増えていますけれど、人間関係のストレスですね。この三つに多くは分類されます。

 ただし、この三つがですね。図に示した様にある程度、重なりを持ってきますので。その一つが単独で起こるという事は、ありえないはずです。一つはですね、侵害受容性の疼痛という事なのですが。これはですね。怪我とか。それから、火傷とか。急激な痛みですね。あるいは、癌の痛みもこの中に分類されます。ということで、これは、今回お話をする治療の対象にはなります。

 もう一つは、心理的、社会的要因による痛み。簡単にうつという言葉を良く使いますけれども、それだけでは片付けられない所があるのですけれども。社会的な背景が最近、多くなっております。企業などでも、今年の秋からですね。このうつ病のスケールをつけて、社員の管理をしなさいという事になっておりますけれど。非常に今、社会的に大きな問題となっているそうです。

 

 今日、お話をするのは、神経そのもの。病気や、それから、神経の切断による圧迫や、その障害によるものについてお話をします。この神経そのものの痛みは、脊髄を電気で刺激する事によって、慢性の痛みを取ることが出来るという風なことがわかっておりますので。そのことについて話をさせて頂きます。

 神経障害性疼痛というものなのですけれども。これはですね、例えば、帯状疱疹と呼ばれる病気があるのですが。これは、神経のある場所にウイルスが巣を作っていて、身体の元気の度合いが落ちてきた時に、整うその神経に沿って、皮膚の表面にポツポツとものが出来たり。それから、そこに物凄く強い痛みを持つものを言います。帯状疱疹後の神経痛。これも、その神経の障害による疼痛の一つです。

 それから、物を噛んだり話したり、歯ブラシをしたりする時に、顔に激痛が走る三叉神経痛と呼ばれるものも有名です。もう一つは、糖尿病が酷くなって、神経への栄養。それから、神経そのものが具合が悪くなる、糖尿病の神経症と呼ばれるものもあります。

 実は、疼痛の調査をした人がいまして、20歳以上の成人の22.5%。その半数は、神経障害性の疼痛という風に呼ばれております。で、70%の人は、痛みの程度が中等度なので、非常に普段の生活が障害されますし。これは、社会の中で働くものにとっては、非常に社会的損失という事になりますので、真面目に治療しなかればいけないという事になります。

 という事で、痛みを訴える患者さん。加護できない問題ですので、患者さんの訴えを良く聞きながら治療していこうという事が大切になります。時には、他の方と協力をしながら治療を進めていくという事も必要です。

 これが少し難しい話になるのですが、実は神経はですね。太さによって、そこを流れる電気のスピードが変わってまいります。当然、太いものは速く伝わりますし、細いものが遅く伝わります。例えばですが、私はこうぱっと手を動かす時に、色々な筋肉が縮んだり伸びたりするのですが。これの電気のスピードというのは大体、新幹線と同じくらいだという風に言われております。

 それに対して、痛みとかですね。そういった感覚とか。こういうものは細い神経を伝わりますので、非常にゆっくりとした伝わり方になります。この痛みに関しても、実は、神経の太さによって感覚が変わってくるのですけれども。例えば、肘をぶつけた時に、一瞬くる鋭い痛みというのは、やや太い線。そして、後から遅れてくるズーンとする痛みというのが、細い繊維の動きという風に言われております。

 この図は、非常に専門用語ばかり書いてあるのですが、実はですね。一回、障害が加わって神経に何らかの機能障害が加わって、そうしますとですね。悪いサイクルを作ることがあるのですね。神経が神経を自分で痛み付けて。そして、その痛みが長続きすると。この痛みの悪循環が始まってしまいますと、これが数か月と慢性の痛みという事になりますので。これで最初はお薬を使って、ダメな場合はこれから、先程脳に電気を流す事をお話ししましたけれども。脊髄に電気を流すという治療になります。

 少し、歴史的な事をお話しをさせて頂きます。実は紀元前ですね、シビレエイという魚がいるのですが、これを生きたままの状態で、痛い所にのっけてですね。そこから電気が流れるのですけれども、それによって痛みが取れたということを記載している、非常に古い文献もあります。

 それからですね、1786年なのですが、皮膚の上からどこかを電気で刺激すると、筋肉が縮むという事を見つけた人がいます。それから、1793年には、Voltaという人が電池を発明しております。そして、1831年、Faradayという人がですね、実は電気を流して動かない、または、動きにくい筋肉に電気を流すと、そこの機能が少し戻るという事を、発見をしました。という事で、神経。それから筋肉は、非常に電気に対して敏感で、それらを使った治療というものが、近年発展をしているわけでございます。

 ペインクリニックにきますと、神経にブロックというものがあります。ブロックと呼ばれるのは、局所麻酔薬。麻酔薬を神経のある所に注射してあげて。そして、その神経を一時的に機能を落とす。麻痺させる。そういう事によって痛みを、頭の中に伝えていかないという治療法です。

 この神経のブロックの手術というのは、いくつかあるのですけれども。実はこのブロックの同じ様な効果がですね、神経をブロックする時に注射をする場所にですね。この様に、電気を流す電線を入れてあげて、電池を皮膚の下に埋め込んでそれを長続きさせるという事が出来るわけです。

 実際に動画でちょっと説明を致しますが、こちらが前でこちらが後ろ側になりますね。ちょっと脊髄が動いている状態なのですけれども。背骨の中にですね、手足に行く神経が束になっている脊髄と呼ばれるものがあって、その後ろ側に、この様に電気を流す電極と呼ばれるものを入れてあげて、ここを刺激してあげるという手術です。

 手術そのものは、非常に短期間で出来ますし、その効果については後でお話を致します。これは、神経の具合が悪くなる、神経障害性の疼痛に対して効果があって、海外ではもう25万人以上。国内でももう約5千人以上の方が、この治療を受けられています。

 なぜ、電気を流すと、痛みが抑えられるのかという事が、このGate Control theory というやつなのですが。実は、感覚とですね。痛みの神経というのは、太さが違うのですね。それで、このいわゆる、触覚が伝わる線維というのが非常に太くて、痛みは細い神経を伝わってきますので。

 こちら、左側が痛みをつかさどる悪いグループが乗っている電車です。右側が触覚、電気が流れて非常に身体に脳に心地良い感覚を伝えるグループが乗っている電車です。実は、触覚の方が速く伝わりますので、ここで悪い軍団がポイントに来ても、これが脳の方に切り替わらないので。そして、ここで痛みが脳に伝わらないというのが、この電気で痛みのこのコントロールをする原理だという風に言われております。

 もう一つは、この様に、脊髄の後ろ側に電気を流す事によって、そこから気持ちが良い感覚が先程の様に伝わるようになるというのが一つ。それから、脊髄の周りの線維にそれを抑える様な、痛みを直接抑えるような、直接的な働きをして、患者さんの痛みを和らげてあげるという二つの作用機序。作用を説明する機序が考えられております。

 まずですね、手術室で局所麻酔で背中の部分。腰の部分が多いのですけれども、ここに針を入れて。そして、一般の病棟でですね、1週間くらいテストの刺激をさせて頂いて、患者さんがどれくらい痛みが取れているのかという事を、鑑定させて頂くという事がうちでやっている方法です。

 患者さんがこれで良いという風になりましたら、いよいよ本格的に埋め込む手術をもう一度やらせて頂くということ。2回に分けて手術を行います。なぜ、2回に分けて手術を行うのかと言いますと、痛みというのは、人の情動。感覚によるもので、それは、我々医師や看護師がですね。

 例えば、この人の痛みは今は100だと。50だと。そういう風に、こちらで診察して決める事は出来ないので。患者さんに、この治療を体験してもらう事によって、どれくらい具合が良くなるのかという事を、試すためのテスト期間が必要なので、2回に分けさせて頂いているというのが、今、日本でも世界中でもやられている手術です。

手術の原則なのですが、一つは神経がやられている。障害されている疼痛、痛みであるということ。それから、多少あってもかまわないのですが、精神的な障害がほとんど無いという事。それから、もう一つは、薬物療法が十分でない。飲み薬が十分では無い、効果を発揮しない様な患者さんに対して行うのが原則で。やはりこれもパーキンソン病と同じなのですけれども。いきなりこの治療という事はありえません。

 これが当院のホームページに出ている図なのですが、ここで先程、注射でブロックした部位にですね。丁度ここに電極を入れて、この電池から刺激をしている図です。これが実際に患者さんに埋め込んだ時の写真です。背骨の部分ですね、ここに二本、電気を流す電極が通っているのが良くお分かり頂けるかと思います。

相武台脳神経外科
頭痛、めまい、耳鳴り、海老名、厚木、新百合ヶ丘

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